

山梨の食文化とその土地に根付いた生産者を紹介する「テロワールな人」。
今回ご紹介するのは「井筒屋醤油」のみなさんです。
井筒屋醤油さんは、山梨県で伝統的な食文化を守るために、伝統の製法を守りながら、醤油・味噌・麹づくりを続ける貴重な存在です。
かつて山梨県には、昭和20年頃まで約60軒の醤油・味噌の製造元がありました。しかし、 大手メーカーの大量生産品の普及や、製造設備の維持にかかるコスト、重労働といった要因から、その数は激減。現在、県内で醤油を造るのは わずか2軒、味噌も数軒を残すのみとなっています。
そんな中、井筒屋醤油さんは 「その土地の食文化を守る」 という想いのもと、昔ながらの製法で醤油・味噌・麹をつくり続けてきました。近年では、次世代を担う息子さんたちも加わり、伝統を継承しながらも、活気あふれる新たな挑戦を続けています。
山梨ならではの味噌「甲州味噌」
井筒屋醤油さんでは、麹づくりから味噌や醤油の醸造まで一貫して手がけています。その中でも、この土地ならではの逸品が 「甲州味噌」 です。
甲州味噌は、米麹と麦麹を合わせて発酵させた山梨独自の味噌。山梨ではかつて米の収穫量が少なく、麦で補ったことから生まれたといわれています。全国的にも珍しい製法で、一般的な 「米味噌」「麦味噌」どちらにも分類されない 独自の味わいが特徴です。その風味は、さっぱりとした米味噌の甘みと、麦味噌の香ばしいコクが絶妙に調和し、まろやかで奥深い味わい。郷土料理の 「ほうとう」 にも欠かせない存在です。
また、井筒屋醤油さんでは 白味噌、麦味噌、米味噌 など、多様な味噌を製造・販売。料理や好みに合わせて選べるのも魅力のひとつです。
地域の食文化を支える存在
店内を訪れると、味噌 や醤油を選ぶお客さんのほか、自宅で味噌を仕込むための 米麹や麦麹を買い求める人々 の姿も見られます。手作り味噌に欠かせない麹を量り売りしている井筒屋醤油さんは、家庭の味噌づくりを支え、味噌文化を守る大切な役割を担っています。
また、将来的には 「手前味噌仕込み教室」 の開催も検討しているそう。先日は、甲府の五味醤油さんの味噌仕込み教室に参加し、学びを深めたとのこと。地域の味噌屋さん同士が手を取り合いながら、山梨の味噌文化を次世代へとつないでいるのも素敵ですね。
井筒屋醤油さんは、単に「醤油や味噌をつくる」だけではなく、山梨の食文化を未来へとつなぐ貴重な存在なのです。
山梨の風土が育む唯一無二の味噌と醤油
井筒屋醤油では、地元の麦や大豆を積極的に使用し、原材料に対するこだわりを大切にしています。この取り組みには、地域の一次産業を守り育てるという強い想いが込められています。
山梨の峡北地方は、昼夜の気温差が大きく、年間の日照時間が長いという特長があります。そんな厳しい自然環境で育った大豆と米は、旨味をぎゅっと内包し、風味豊かな味わい深い味噌に仕上がります。これこそが山梨ならではの、自然が育んだ恵み。県産の素材で醸された調味料は、その土地の味をさらに引き立て、他にはない魅力を感じさせてくれます。
また、次世代を担う息子さんたちが戻り、これまでの伝統を守りながらも、新たな挑戦を積極的に模索している様子がとても印象的でした。彼らの前向きな姿勢に、これからの展開がますます楽しみです。
取材の最後には記念撮影をお願いすると、みなさんははっぴを着て、互いに襟を整えあいながら笑顔でポーズをとってくださいました。お互いを気遣い、温かな絆が感じられる瞬間でした。
その土地ならではの食文化を守る、まさにテロワールなご家族です。ぜひ、実際にお店を訪れて、愛情が込められた製品と温かい雰囲気を感じてみてください。
山梨県産原料にこだわる逸品商品はこちら
●『一味一会 醤油 醸(JYO)』
山梨県北杜市産の大豆(あやこがね)と、韮崎市藤井町のタンパク含量の高い小麦(ゆめかおり)を使用。昔ながらの天然醸造でその土地の気候に寄り添い味わいを醸し出しています。
●『一味一会 味噌 輪(RIN)』
山梨県北杜市産の大豆と、古来より「藤井平五千石」と呼ばれる峡北有数の穀倉地帯で生産された「韮崎市産コシヒカリ」を使用しています。
伝統を受け継ぎ、未来へつなぐ井筒屋醤油
コーディネーター
門之園知子
井筒屋醤油株式会社
山寺英一郎さん、直美さん、聡一郎さん、慶三郎さん
つくり手から見た山梨テロワールのすばらしさ!
① 自然の恵みと発酵が育む山梨の味
「山梨の澄んだ空気と清らかな水が、味噌や醤油の発酵に適した環境をつくり出しています。四季の寒暖差が深い旨みを引き出し、じっくり熟成されることで、ここでしか味わえない風味豊かな味噌や醤油が生まれます。」
② 昔ながらの食文化とつくり手の想い
「かつて山梨の各家庭では、味噌を仕込む文化が根付いていました。その風習を支えてきたのが、地元のつくり手たち。今も変わらず、私たちは伝統の製法を守りながら、地域の味を未来へとつないでいます。」
③ 地域に根ざした発酵の知恵
「山梨では米が少なく麦を活用してきた歴史があり、それが独自の『甲州味噌』という文化を生み出しました。限られた資源の中で工夫し、自然の力を活かしてきた発酵食品こそ、山梨のテロワールの象徴と言えるのではないでしょうか。」