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山梨県のテロワール

山梨県を大きく7つのエリアに分け、各地域の自然環境を総合的に把握できるよう、それぞれの地形・地質、気候・気象、土壌、そして水質をご紹介。
これらの要素がテロワールを形成する基盤となり、農産物等の特色に影響を与えています。

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太陽の恵みが凝縮された“フルーツのパレット”

甲府盆地地域

かつて武田信玄が築いた城下町・甲府。四方の峻嶺がそびえ立つ盆地には、朝から夕方まで惜しみなく降り注ぐ太陽と、夜には高原のような涼風が吹き抜ける。その環境で育った桃やブドウは、まるで太陽の光をそのまま封じ込めたかのような甘みと香り。
「果樹づくりは日々の太陽への感謝」という心持ちを感じさせてくれるかのように、変わらず丁寧に畑に向き合っています。

地形・地質

●構造盆地:周囲を南アルプス、八ヶ岳、奥秩父山地が囲む。厚い沖積土層が広がり、肥沃な平野を形成。
●標高:盆地底で約250~300m。周囲の山々は2,000m超の標高を持ち、強い地形的コントラストを形成。
●地質:三方向からの土砂が堆積し、肥沃な沖積平野が拡がる。砂やシルト、粘土が層を成しています。

気候・気象

●日照時間:年間2,200~2,400時間と全国有数。
●降水量:1,000~1,200mm/年。夏は局地的な夕立が多く、冬は乾燥が顕著。
●寒暖差:夏は猛暑、冬は放射冷却で非常に冷え込むため、昼夜温度差が大きい。

気象庁の過去データによると、甲府盆地では夏季に局地的な夕立が頻発しており、短時間で局所的に大量の雨が降る現象が確認されています。また、特に朝夕においては、昼間の高温と夜間の急激な冷却により大きな温度差が発生する傾向が見られます。この急激な温度変化は、果実の糖度向上や発酵食品の品質改善に寄与する可能性があると考えられ、地域特有のテロワール形成において重要な役割を果たしているといえます。

土壌

●肥沃な沖積土:河川堆積物が多い。pHはおおむね中性付近(6.0~7.0)。
●水はけ:局地的には水はけの良い砂質土と、粘土質で水分保持力の高い土壌が混在。

水質

●主な水源:盆地内の地下水、釡無川・笛吹川の伏流水。
●水質傾向:軟水が中心。地層のろ過効果が高く、清澄で柔らかい水が得られます。
●利用例:清酒醸造や生活用水。軟水を好む発酵食品(日本酒・味噌)にも適しています。

この地域のテロワールの特徴まとめ

・果樹王国:高い日照量+昼夜寒暖差でブドウや桃の糖度が高まる。
・清酒醸造:軟水が繊細な酒質を生む。

葡萄と人が紡ぐ、和と洋が交差するワイン物語

勝沼地域

(東山梨)

扇状に広がるブドウ畑を見下ろす丘の上、夕日が照らすワイナリーの蔵からは香ばしい樽香が漂ってきます。明治期、フランスで学んだ醸造技術が勝沼の土地に根づき、和の農業技術と融合。いつしか甲州種ワインは「和食に合う白ワイン」として世界に羽ばたく存在に。勝沼の空はその歴史をずっと見守り、今日もまたワイン造りに励む人々を照らしています。

地形・地質

●傾斜地の多い丘陵地:標高300~600m程度。
●砂礫層:水はけに優れ、ブドウの根が深く伸びやすい。

気候・気象

●日照時間:甲府盆地同様に長く、夏場は高温になるが、夜間は比較的冷涼。
●季節風:扇状地形で風が通り、蒸れにくいブドウ栽培に有利。

勝沼地域は地形的要因により自然の風の通り道が形成されています。具体的には、周囲の丘陵や斜面が風を集中させるため、夏季には南西からの風が峡谷を通じて強く吹き込み、夕方には急激な冷却効果をもたらすことが確認されています。一方、冬季には風向が変化し、北東からの冷たい風が地域内に流れ込み、昼夜の温度差が一層顕著になります。これにより、現地の気象データでは、風速が局地的に4~5 m/sに達するケースも見受けられ、これがブドウの成熟過程における熱ストレスの緩和や、夜間の温度低下に寄与していると考えられます。さらに、これらの局地的風の特性は、作物の蒸発散や微気候の形成にも大きな影響を与え、農業生産の質向上に寄与する要因として注目されています。

土壌

●砂礫土:通気性が高い。ブドウの糖度と香りを高める要因となります。
●部分的に粘土質:場所によってはミネラル保持力が強く、ワインの味の違いに繋がります。

水質

●主な水源:笛吹川伏流水、地下水。
●水質傾向:鉄分が少ない軟水。ワイン造りにおいて余計な雑味を与えにくい。
●利用例:ワイン醸造(甲州種、メルローなど)、生食用ブドウの灌漑。

この地域のテロワールの特徴まとめ

・ワイン発祥の地:フランス式醸造技術×甲州種の組み合わせ。
・ブドウ栽培適地:水はけ良好な砂礫層+長い日照、鉄分少ない軟水。

天空の菜園で育まれる、涼やかな恵みの一皿

峡北地域

(北杜市、韮崎市など)

八ヶ岳の稜線を望む朝、薄霧のなかでレタス畑がきらきらと光り、清流が運ぶ雪解け水と涼風が、その葉一枚一枚にやさしく染みわたる。標高1,000mの畑で採れた野菜は、どこか繊細で甘みが深い。訪れる人々は、その澄んだ味に驚きを覚えています。

地形・地質

●高原地帯:標高800~1,500m。八ヶ岳・南アルプスの麓。
●火山性堆積物:一部地域では八ヶ岳噴火由来の火山灰・スコリアが見られます。

気候・気象

●冷涼な夏:夏季でも平均気温は20℃台前半。
●降水量:相対的に少なく、乾燥気味の高原気候。

峡北地域では冬季に積もった雪が春先に急速に解け、雪解け水が地表に大量に供給される現象が顕著に見られます。これにより、春季には一時的に湿度が上昇し、昼間の温度上昇とともに作物の生育初期に十分な水分が提供されるとともに、日中と夜間の温度差がさらに際立つ傾向が確認されています。このような雪解け水の供給は、高原特有の乾燥気味の気候と相まって、峡北地域の独自のテロワール形成に寄与していると考えられます。

土壌

●水はけ良好:火山性土壌や花崗岩風化物により通気性が高い。
●有機物:高原地帯の落葉堆積などで有機質豊富な箇所も。

水質

●主な水源:南アルプス・八ヶ岳の雪解け水、湧水。
●水質傾向:軟水~中硬水。地域によってミネラル含有量が異なります。
●利用例:高原野菜の栽培、クラフトビール(ミネラル分がバランス良く、ホップの香りが引き立つ)

この地域のテロワールの特徴まとめ

・高原野菜の一大産地:冷涼気候+水はけ良い土+雪解け水
・牧場文化&雑穀栽培:稲作困難な冷涼地の代替産業

果実と葡萄が奏でる、自然のシンフォニー

峡東地域

(笛吹市、甲州市など)

峡東地域では、朝方の濃い霧と冷涼な風が、まるで静かな序曲のように一日の始まりを告げ、昼間は豊かな日差しが降り注ぎ、桃や季の果実にしっかりとした甘みとコクを与えます。一方、夜になると急激な冷却で果実の糖度がさらに引き締められ、その結果、まるで自然が作り出した音楽のように、果実と葡萄が調和の取れた風味を奏でます。この独特の環境は、地域の農業とワイン造りにおいて、他に類を見ない魅力を生み出しています。

地形・地質

●笛吹川流域:平坦な扇状地と低い丘陵が続く。
●火山灰質土壌:扇状地のろ過効果と相まって、土が細かく水はけが適度に保たれます。

気候・気象

●温暖・日照豊富:甲府盆地と似た気候で、年間日照時間2,000時間超。
●昼夜差:果樹の糖度向上に適した日較差がある。

峡東地域では朝方に発生する濃い霧と、冷涼な風が特徴的です。具体的には、夜間から朝にかけて急速な温度低下が起こり、地表付近で霧が発生しやすくなるとともに、冷たい風が地域内を通過するパターンが見られます。この現象は、昼夜の温度差が大きいことと相まって、果実の糖度向上に寄与すると考えられ、峡東地域の特有のテロワール形成における重要な気象要素として注目されています。

土壌

●砂礫層×火山灰:桃や季など核果類の甘みを引き出しやすい。
●pH:おおむね中性~弱酸性域。

水質

●主な水源:笛吹川伏流水、地下水。
●水質傾向:比較的鉄分が少ない軟水。ワイン造り・果樹栽培の灌漑に向く。
●利用例:桃・季栽培の潅水、ワイン醸造(勝沼との地続きエリアも含む)。

この地域のテロワールの特徴まとめ

・“桃源郷”:春の桃の花景観とともに、豊富な水と日照が果実の濃厚な甘みを生む。
・ワイン造りの拡大:鉄分の少ない水質が雑味を与えず、繊細な味わいを引き立てる。

南アルプスのミネラルが育む、宝石のような果実たち

峡西地域

(南アルプス市など)

春、南アルプスの峰々が真っ白な雪を頂く頃、その雪解け水は花崗岩を伝い、やがて峡西の大地を潤します。桃畑やサクランボ畑では、ミネラル豊かな水と土が果実一粒一粒に旨みを吹き込みます。収穫した実は鮮やかで、かじればその土地の息吹を感じさせてくれます。ここでは“神々の山”が果樹づくりを見守る守護神なのです。

地形・地質

●南アルプス山系:標高3,000m級の山々。花崗岩が露出しやすい。
●扇状地:峡西平野部では花崗岩質の風化物が運ばれて堆積。

気候・気象

●昼夜の寒暖差:山岳地帯の冷涼な空気が流れ込む。
●降水量:1,000~1,300mmほどで、台風時には増水しやすい。

山岳地域特有の急変する気象現象として、峡西地域では晴天が一転して急激に曇り、短時間で霧が発生するケースが多く見受けられます。さらに、台風や前線通過時には、突風とともに急激な降水が局地的に発生し、短時間で大気の状態が大きく変化する現象が確認されています。これらの急変気象は、昼夜の温度差を一層際立たせ、作物の成熟過程や地域の農作業に大きな影響を及ぼす要因となっています。

土壌

●花崗岩質土壌:ミネラル豊富、水はけ良好。果樹の根が張りやすくコクのある果実に。
●標高差:多様な作物栽培が可能(桃、季、サクランボ等)。

水質

●主な水源:南アルプスの雪解け水、伏流水。
●水質傾向:清冽な軟水が多いが、湧水地点によっては中硬水に近いケースもある。ミネラル成分が独特。
●利用例:果樹栽培、サクランボの潅水、清流を生かした紙すきなどの伝統産業。

この地域のテロワールの特徴まとめ

・ミネラルリッチな土壌+雪解け水:果実の香り・コクを引き出す。
・修験道や信仰:山岳信仰に支えられた文化的背景も強い。

火山が育んだ大地と信仰、富士北麓の涼風レシピ

富士北麓地域

(富士吉田市、富士河口湖町など)

富士山の雄大な姿を仰ぎ見る北麓の畑では、朝露がきらめき、火山灰土の下でキャベツやジャガイモが根を伸ばします。夏でも涼しい気候は、食卓を彩る高原野菜の生産に向いています。富士山への信仰とともに脈々と受け継がれてきた祭りや郷土料理は、噴火の恵みともいえる火山灰土壌の恩寵を、“神の糧”のように人々にもたらしています。

地形・地質

●火山灰土壌:富士山の噴火堆積物(玄武岩質、スコリアなど)が厚く堆積。
●標高:700~1,000m前後。夏も涼しい高原環境。

気候・気象

●冷涼・乾燥:富士山麓特有の風が吹く。

富士北麓地域では、火山活動由来の影響が顕著に表れており、火山灰が大気中に舞い上がることで局地的な降水パターンが形成されています。具体的には、降水は断続的かつ局所的に発生し、場合によっては短時間に集中豪雨となることが確認されています。また、富士山麓特有の冷涼な風は、火山灰土の特性と相まって、昼夜の急激な温度低下を促進し、作物の成熟や発酵食品の品質に影響を及ぼすと考えられます。これらの現象は、地域全体のテロワール形成において重要な役割を果たしています。

土壌

●極度に排水が良い火山灰土:根菜やキャベツなどの高原野菜が根腐れしにくい。
●有機肥料管理:水分保持が課題となるため、堆肥などで保水力を補強するケースが多い。

水質

●主な水源:富士山の伏流水、河口湖などの湧水群。
●水質傾向:バナジウム含有が多い中硬水~硬水傾向の場所も。
●利用例:ミネラルウォーターの採水、火山灰由来の水を活かした発酵食品や地ビール醸造。

この地域のテロワールの特徴まとめ

・火山灰土×冷涼気候:高原野菜や根菜に適する。
・富士山信仰:祭事(吉田の火祭りなど)と結びつき、観光面でのアピール度が高い。

若神子のドンドン火祭り

(北杜市須玉町)

主な祭事と食文化の特性

田んぼの草取り終了後、出穂前の大きな節目として行われる、伝統行事としての虫送りの火祭りです。

春先の水防祈願と農作の始動期を結びつける祭り。太巻き寿司や赤飯が儀礼食として提供されます。

おみゆきさん(大神幸祭)

(笛吹市一宮町)

甲斐いちのみや大文字焼き

(笛吹市一宮町)

笛吹市一宮町において、夏の終わりとお盆の到来を象徴する送り火の儀式として行われ、先祖への感謝と共に、地域の安寧と豊作を祈念する重要な伝統行事となっています。

夏の終わり(お盆・富士登山シーズン後)に火を用いて富士山信仰に基づき、布巻(めまき)等の儀式が行われる。邪気払い・豊作祈願をする習俗です。

吉田の火祭り(鎮火大祭)

(富士吉田市)

相模川の清流に寄り添う、山あいの棚田が紡ぐ郡内の恵み

郡内地域

(大月市、都留市、上野原市、西桂町など)

大月や都留の山並みを抜けると、霧に包まれた早朝の棚田が顔を出します。谷底からは澄んだ相模川の流れが聞こえ、岩肌から湧き出る清水が田んぼを潤しています。かつてこの地の人々は、甲府盆地を越えるよりも川沿いに下って神奈川方面に出ることが自然だったという。そんな地形の制約が、逆に独特の文化や農作物を育んできました。棚田で育った米は粒がしっかりと締まり、水の甘みが凝縮されていると評判です。山間の小さな集落ごとに、祭りや習俗が息づき、清流のほとりには必ずといっていいほど神社があります。郡内の人々は「相模川こそが私たちの母なる川」と語り、今日も山あいの棚田で大切に米や野菜を育てています。

地形・地質

【山岳・渓谷の多い東部山間地】
●神奈川・東京との県境付近にあたるエリアで、標高300m台~1,500m近くまでアップダウンが激しい。
●大月市周辺ではリニア中央新幹線の工事などにより、地質調査が進みつつあります。


【相模川水系】
●相模川の上流域にあたり、古くから神奈川方面との交通や水運につながります。
●都留市~大月市付近は深い渓谷と急峻な山並みが続くため、可住地面積が限られています。

気候・気象

●冷涼かつ多雨の傾向。谷間ではしばしば局地的豪雨や霧が発生。

相模川上流域における気象観測データによれば、郡内地域では、地形の影響で狭い谷間や山間部において濃い霧が発生することが頻繁に確認されています。また、局地的な雨量変動も顕著で、短時間で急激な降雨が起こるケースが見られます。これにより、朝露の形成が促進される一方で、急激な降雨は土壌の湿度管理に課題をもたらすこともあります。こうした局地的な気象現象は、地域独自の農業形態や作物の生育環境に直接影響を与え、郡内地域のテロワール形成における重要な要素として捉えられます。

土壌

【山地の表層土】
●神急峻な地形のため、砂や礫が流出しやすい一方、扇状地や河岸段丘状になっている部分では沖積土も分布。
●一部花崗岩が風化した土壌もあり、場所によってはミネラル分が高い。


【耕作地の規模】
●平坦地が少なく、小規模な棚田や段々畑で野菜や果物を栽培する例が多い。

水質

【相模川水系の伏流水・湧水】
●郡内地域は相模川の上流域に位置し、谷や山裾からの湧水・伏流水が主な水源。
●一般に軟水~中硬水が多く、花崗岩や砂岩系の地質が水をろ過する。

【多雨と浸透】
●年間降水量が多いため、地下水の涵養量が比較的豊富で、清涼感のある湧水スポットが点在。

この地域のテロワールの特徴まとめ

・交通史と自然環境の交錯
・傾斜地における農業
・冷涼な気候と水資源

【主な文献・統計データ】

●農林水産省「作物統計」(URL:https://www.e-stat.go.jp/
 - ブドウ、桃の都道府県別生産量データを参照
●山梨県公式サイト「やまなしの水」
URL: https://www.pref.yamanashi.jp/water/shiru/yamanashimizu.html
●気象庁「過去の気象データ検索」(URL:https://www.data.jma.go.jp/
 - 主要観測所の月別・年別データ
●日本野菜テロワール協会公式サイト(URL:https://tradveggie.or.jp/
●書籍・論文
- 「古代甲斐国の交通と社会」大隈清陽著
- 「地形と地名の愉しみ方」輿水秀人著
- 「聞き書 山梨の食事」農文協
- 「山に暮らす 山梨県の生業と信仰」堀内眞著
- 「山梨の郷土食」依田萬代著
- 「伝承写真館 日本の食文化5甲信越」農文教
- 「日本の民話 8 上州・甲斐篇」小野忠孝著

【作成・監修】
令和6年度「食材流通コーディネーターによる県産食材流通活性化事業」受託
一般社団法人 日本野菜テロワール協会

山梨県の自然環境の多様性とテロワール

地形・気候・土壌・水質は、山梨県内で大きく変化するため、同じ作物でも地域によって味わいや特徴が異なっています。
甲府盆地~勝沼では軟水ベースで果樹・ワインに適し、富士北麓や八ヶ岳では冷涼環境×ミネラル豊富の水が高原野菜や発酵食品を生み出しています。

自然環境は歴史・祭事・信仰とも結びつき、地域独自の食文化を形成するものであり、まさにテロワールの根幹をなすものと言えるでしょう。

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